劇場版「復活のルルーシュ」告知映像に振り回された妄想

「くそっ!」
ゼロ・スザクは、彼専用ナイトメアフレームのコクピットで歯噛みする。
宣戦布告なしの突然の攻撃。
超合衆国憲章に批准し、独自の軍隊を持たぬ合衆国ブリタニアに対する侵略行為。超法規的措置として、駐在する黒の騎士団内ゼロ直轄部隊が応戦するものの、数において圧倒的不利だ。
ゼロ直轄だけあり、元ラウンズのジノ・ヴァインベルグはじめ、帝国の魁と呼ばれたギルバート・G・Pギルフォード、黒の騎士団エースの紅月カレンなどパイトットのレベルは最高峰ではあるが、『敵』は質もさることながら量で押してくる。
個々の戦術は申し分ないが、数に置いての圧倒的不利は、戦略を担当するゼロさえも前線に立たなければならない状況に追い込まれていた。
一人一人が対峙せねばならぬ敵の数が多すぎる。エナジーフィラーの残量も残り少ない……おそらく他の仲間も同様だろう。補給もままならないこの状況は、最悪だ。
「どうする……?」
思案するスザクに、オープンチャンネルから呼びかけがあった。
「そろそろ観念したら?」
敵の中に、他のものとは違うデザインのナイトメアフレームがある。
「貴様が、指揮官か。」
その問いかけに、相手は鼻で笑う事で答える。
「選ばせてあげるよ。降伏か、全滅か。」
その呼びかけに舌打ちする。ギリと奥歯をかみしめた。
首を垂れ瞑目したまま、スザクは沈黙する。それは、数寸であったかもしれない、また、数分であったかも……
ゼロ機から、降伏を知らせる信号弾が発射される。
それを見た、誰もが息を呑んだ。
「……馬鹿なっ。」
「そんな……っ。」
「ゼロっ!」
『一つ、条件を出してもいいか。』
敵、指揮官に対してのゼロの呼びかけがスピーカーから聞こえてくる。
『捕虜とするのは、私のみとしてもらいたい。』
『部下の命乞いか。』
侮蔑を込めた薄笑いが漏れ聞こえる。
『まあ。いいだろう。あんたに免じて見逃してやるよ。ゼロ。』
『──感謝する。』
押し殺したゼロ…スザクの声に、カレンはたまらず声を上げる。
「ゼロっ!」
『紅月……星刻総司令に伝言を……あとを頼むと。』
「……っ!了解……しました。」
紅蓮のパイロットシートに、点々と雫の痕が付く。
スザクは、ブリタニア政庁のナナリーの側にいる、シュナイゼルに通信をつないだ。
「シュナイゼル。」
『はい。ゼロ。』
「後の事は任せる。世界の秩序は、武力以外の方法で守らなければならない。」
『イエス マイ ロード。』
コクピットを開き、両手を上げ敵のもとへと歩むその後姿を、ゼロ直轄部隊の誰もが悔しげに見送る。ジノの拳が、コクピットに打ち付けられた。

「そんなっ。ゼロ……っ!」
ナナリー・ヴィ・ブリタニアは、自らの肩を掻き抱いて打ち震えた。
スザクさん……!!
そんな彼女の耳に、こんな状況にもかかわらず冷静な声が叱咤する響きで届いた。
「しっかりしなさい。ナナリー。」
「シュナイゼル…お兄様。」
「貴女は、この合衆国ブリタニアの国家元首だ。そして、超合衆国最高評議会議長でもある。
トップである貴女が、そんなに動揺していてはいけない。」
諭すように、だが、容赦のない響きで語る兄を、彼女は凝視する。
「ルルーシュが、チェスを指すときいつも言っていたね。『王自ら動かなければ、周りは動かない』と……」
その言葉に息を呑む。そして、軽く瞑目すると、再びその大きな瞳を開いた。
彼女の薄いラベンダー色の瞳は、強い意志を映して力強い煌めきを放っていた。
「……あなたの仰る通りですね。
最高評議会を招集します。シュナイゼル。あなたもゼロの代理として出席してください。」
「イエス マイ ロード。」
かつて神聖ブリタニア帝国の宰相であり、現在はゼロの腹心である男が薄く笑みを浮かべた。

ゼロ投降の報は、すぐに黒の騎士団総司令である黎星刻のもとに届いた。
怒りを込めた拳が、戦略パネルに叩きつけられる。
「───我がCEOが捕らわれたのだ。超合衆国の決議を待たずとも、黒の騎士団独自の判断で奪回に動く!」
噛みつくように声を荒げる星刻に、通信モニターの人物は嘆息を漏らした。
『貴方らしくないな。星刻。ゼロに、後を頼むと言われたのだろう。助けてくれとは言われなかったはずだ。』
「しかし、シュナイゼルっ!」
モニターの人物は、常と変わらぬアルカイックな笑みで答える。
『ゼロから私への伝言は、秩序とは話し合いによって保たれるべきであるという事だった。彼の意思を尊重する気持ちがあるのならば、手続きを遵守して欲しい。いずれにしろ、すぐに議決されるだろう。』
「───わかった。」
歯噛みしながら了解する彼に、シュナイゼルは満足そうに微笑む。
『必ず奪回しようじゃないか。あの方を。』
「当然だ!」
かつて、大国の軍を仕切っていた二人の青年が、強い意思をもって頷き合う。

ゼロ。必ず、あなたを助ける───

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