a captive of prince 第20章:対話 - 1/7

 日本海のとある公海上空。
 ブリタニアの誇る浮遊航空母艦アヴァロンに今、1機の輸送機が着艦した。
 全体が黒く塗装された機体の後方には、黒の騎士団のエンブレムが描かれている。
 ナイトオブラウンズを先頭に、ブリタニア兵が見守る中、2人の人物がタラップを降りてくる。
 黒衣の怪人とその妻を自称する少女。
 ゼロの表情はフルフェイスの仮面のため窺い知ることは出来ないが、その傍の皇神楽耶の立ち振る舞いに、皇帝の騎士として、また自身も大貴族の嫡子として、数多くの貴婦人を見て来たジノ・ヴァインベルグは感嘆した。
 新婦の友人として招待されていた朱禁城の時とは違う。
 捕虜返還の交渉とはいえ、敵のただ中に護衛もなくゼロと共に現れた彼女の姿は、凛として一分の隙もない。真っすぐ前を見据え口元はきりりと真一文に引き締まっている。
 あどけなさの残る面差しとは裏腹に、どんなことにも動じない剛胆さが見て取れる。
 それが何とも清々しい。
 思わずヒューッと息を漏らした。
「紅蓮のパイロットといいあの奥方も……ゼロの周りは勇ましい女性ばかりだな。」
「テロリストの夫人を語るだけ、ある……?」
「……だな。」
「これはこれは……ラウンズのお二人に出迎えて頂けるとは。」
 ゼロが相変わらず仰々しい物言いで声をかけてくる。
 ジノとアーニャは顔を引き締めた。
「ここから先、艦内は我々が案内する。」
 それぞれ、ボディチェックを受け、ゼロと神楽耶はナイトオブシックスの先導でアヴァロン内に足を踏み入れた。
 一行のしんがりはジノが務める。
 通路の要所要所を兵が警戒する中、四人は無言で進んでいった。
 アーニャがある部屋の前で止まった。
 暗号コードによるロックがあるにも関わらず、扉の左右を兵が警備している。
 アーニャがロックを解除すると、シュンと音を立てて扉が開いた。
 先導していた騎士が道をあけ、中に入るよう促す。
 ゼロが、続いて神楽耶が厳しい表情で中に入った。
 全員が入室すると、ジノが中からドアをロックした。

「どうぞ。ゼロ。」
 穏やかで落ち着いた声が、彼らを歓迎する。
 中央に会議用の長テーブルが置かれたその部屋を、ゼロはぐるりと見回した。
 部屋には、ラウンズ以外の兵はおらず、続き部屋がある様子もない。
 テーブルの両サイドに置かれた椅子は、黒の騎士団側は2脚に対しブリタニア側は………
「こちらは2名だというのに、ずいぶんな人数ですね。
私は、どなたと交渉すれば宜しいのですか。」
 ルルーシュは、溜息を漏らした。
 ブリタニア側の出席者は、錚錚たるメンバーだ。
 第一皇子のオデュッセウスを筆頭に、宰相シュナイゼル、このアヴァロンの現在の所有者であるスザク……皇族3人が並んで座っている。
「まあ。とにかくお掛けなさい。」
 オデュッセウスが、客をもてなすように勧める。
「皇子殿下が3人も……緊張しますわね。」
 神楽耶が愛想良く笑って着席すると、ゼロもその隣に座る。
「ご覧の通り、この部屋には何の仕掛けもない。監視カメラもはずさせてある。」
 スザクが事務的に説明する。
「───そのようですね。
 しかし……このような捕虜返還交渉に立ち会うのは初めてです。」
 ゼロは再び呆れた声で答えた。
「本当に………」
 神楽耶も戸惑いを隠しきれずにいたが、テーブルの向かい側にある人物の姿を見つけると安堵の笑みを向けた。
「素敵なお召し物ですわね。よくお似合いですわ。
カレンさん。」
「あ、ありがとう…ございます……」 
 頬を赤らめ、恐縮しながら、おどおどと礼をいう。
 そう、捕虜返還のための交渉の場に、当の捕虜本人が出席している。
 しかも、捕まった当時のパイロットスーツでも拘束衣でもない。神楽耶が今まで見たこともない姿。
 ブリタニアの貴族の娘が着るようなドレス姿で………
 そして、交渉のテーブルの上には、ふくよかな香り漂う紅茶のはいたカップと、様々な種類のデザート類。
 加えて、部屋の隅にはチェス盤の用意されたテーブルまで。
 これではまるで───
「ティーパーティ、ですわね。」
 神楽耶が、乾いた笑いを漏らした。

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