a captive of prince 第10章:晩餐 - 3/3

 食事も終わり、人心地ついたスザクはやっと食後のコーヒーにありついた。
 調書を統治本部に届けるためにカノンは退室し、給仕人達も出て行った。
 スザクは2人きりとなった事で、ようやくシュナイゼルのエリア11訪問の目的を尋ねる事が出来た。
「兄さんのそもそもの目的は、あの島にある遺跡だとロイドさんから聞きました。あれは一体……」
「いつの時代、誰が何の目的で作られたか等、全く不明だ。
だが、父上があの遺跡を含めた摩訶不思議なものを研究しているのは明らかだ。」
「皇帝陛下が……?」
「クロヴィスに命じた島の探索で、あの遺跡を発見させたのだからね。」
「では、初めから島の中にあの遺跡がある事を知っていて……」
「父上がオカルトマニアだったとは、初耳だよ。
クロヴィスも不審に思って、いろいろと調べていたらしい。
側近だったバトレーの話では、あのような遺跡は世界中に点在していて、我が国の侵攻計画は、遺跡がある国を重点に進められたようだ。」
「まさか…日本がエリアになったのは、あの遺跡があったから……?」
「枢木首相同様、父上にもあの戦争には別の思惑があったという事だ。」
 シュナイゼルの話に、スザクはほっとした表情を浮かべるが、すぐにそれは硬化していく。
 ゲンブによって煽られただけではないという事を知り、ほんの少し心が軽くなる思いがしたが、サクラダイトも父の欲望も、皇帝にとっては本来の目的を隠すための隠れ蓑だったのかと、父ですら利用されていた事実に悔しさがこみ上げてくる。
 俯いて黙りこくるスザクに、シュナイゼルは眉根を寄せた。
「スザクは、あの遺跡の事は知らなかったのだね。」
「はい──。でも…あの島の位置を地図で確認して気がついたのですが、あそこは元々枢木家の所有地でした。」
「枢木家の?」
「はい。それに──もう一度確認すれば分かるかと思いますが…あの大きな扉のようなものに描かれている模様……どこかで見たような気がするのです。枢木神社だったかな…それとも別の……」
 目を伏せ考え込むスザクを、シュナイゼルは息を呑んで見守る。
 やはり、皇帝の日本侵攻の目的はあの遺跡と“枢木”にあったのか。
 遺跡と枢木に何の因縁があるのか…スザクは恐らく何も知らない。
 何かあったとしても、それを知らされる前にゲンブは死んでしまった。
 だが、“枢木”スザクの存在は皇帝にとっては重要なのだろう。
 ただ手元に置くだけではなく皇籍を与えてまで、ブリタニアに縛り付けようとする程……
 それを探れば、スザクを自由にする事が出来るのだろうか。
 “自由”を手に入れた時、スザクはどうするのだろう。その名のように枢木スザクとしての生を復活させて、ブリタニア…自分の元から飛び立ってしまうのだろうか……
 不死鳥フェニックスと同じ神獣の名を持つ弟を見つめ、シュナイゼルは深く息を吐いた。

「兄さん?」
 ため息をつくシュナイゼルを、スザクが不思議そうに見つめる。
「無理に思い出そうとしなくてもいいよ。いずれ解るだろう。
それより、バトレー将軍から面白い情報を貰ってね。」
「面白い───」
 言葉の通りに意味ではない事は容易に分かるだけに、スザクの眉間に皺が寄る。
「クロヴィスがあの遺跡を調べているうちに、別のものに興味を引かれたようでね。
それを使って父上に取り入り、遺跡を研究する理由などを知ろうとしていたらしい。
彼も、この遺跡とスザクを引き取った事は無関係とは思っていなかったようだ。」
「……クロヴィス兄さんが、陛下に取引を持ちかけようとしていた……?」
「『R計画』この写真の人物に見覚えがあるね?」
 そう渡された書類を見て、スザクは愕然とした。
「この女の子……」
「ナリタで、ランスロットの前に飛び出してきた少女だね。」
「はい。───本当にいたんだ……ランスロットの画像データにはなかったから、僕の思い違いだと……」
 そこまで言って、はっと兄を見る。その含みのある笑みに、スザクは顔をしかめた。
「兄さんの差し金ですか……」
 スザクの言葉に、シュナイゼルの顔が引きつる。
「───ロイドの独断だよ。もっとも、私としては有り難かったけれどね。公式に残らなかったからこそ、こうやって暗躍出来る。」
「自分で“暗躍”と言い切ってしまわれるのですね。
そのおかげで、僕がどんなに悩んだと……」
「錯乱したこと自体が、お前に取ってかなりの負担だったはずだからね。それ以上の心労をかけないようにとの、周りの思いやりだよ。」
 もっともらしいシュナイゼルの言い分も、スザクは素直に聞けない。シュナイゼルとロイドの事である、腹に一物も二物も抱えているはずだ。
「───ブリタニアの毒気に相当害されてるな……」
 ぼそりとつぶやくと、シュナイゼルが怪訝な顔をする。
「何か言ったかい?」
「──いいえ。兄さん。コーヒーもいいですが、紅茶を頂きながら、その『R計画』の話を伺いたいですね。」
「もちろん、いいとも。」
「では……」
 スザクは、自分の執務机のインターホンを押して、秘書官のアメリーを呼び出す。
「遅い時間申し訳ない。兄上にお茶の用意と……それから、特派のロイド主任にこちらに来てくれるように言ってくれないか。」
『承知いたしました。先ほど、ユーフェミア様からお見舞いに頂いた焼き菓子がございます。一緒にお持ちいたしますね。』
「うん。ありがとう。よろしく頼むよ。」
 通話がすむと、スザクはゆっくりと兄を振り返り目を細める。
「ロイドさんも含めて、ゆっくりお話を伺いますよ。」
 その笑顔に、シュナイゼルの頬が引きつる。

───この子は……一体誰に似たんだろうね……

 ぞっとする程の笑顔を前に、帝国宰相は肩をすくめた。

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