「クロヴィスが暗殺された?」
エリア11政庁の一角。他のフロアより厳重に警備されたエリアの一室に、スザクのために用意された部屋がある。
クロヴィスが生前用意させたというその部屋は、派手な装飾を好む彼にしては、落ち着いたトーンとシンプルなデザインの家具調度に統一されており、この部屋の主となるスザクの好みを熟知した上で用意させた事が伺い知れる。
そんな兄の心遣いに感謝しながら、その兄の訃報を報告しなければならない辛さに、スザクの表情は暗く沈んでいた。
「はい──。戦闘の最中、総督のG-1ベースに侵入を許してしまったようです。」
「戦闘中に暗殺…?では、犯人は軍内の人間…かな。
側近達の中に紛れている可能性もあるね。」
「はい。その可能性が一番高いのですが。古参の者ばかりで、新たに側に置いた者はいないそうです。」
「ふむ…。不可解な事だね。暗殺者は、その側近達に気づかれずに、どうやってクロヴィスに近づいたのだろう。」
「それが…周りの者が全くいない、総督閣下のみがコンダクトフロアに居た時間があったらしいのです。」
「ますます理解できないね。戦闘中だったのだろう。」
「はい。バトレー将軍本人も、何故そんな事になったのか、自分でも解らないと……
あの狼狽ぶりでは、嘘を言っている様にも見えず……」
「うーん。犯人は、集団催眠でも使えるのかな。」
「催眠術ですか?」
モニター越しに真面目な顔で荒唐無稽な話をする人物に、目を丸くするスザクを見る相手の表情が思わずほころぶ。
「あり得ない事だと思うけれどね。そう考えないと理解できない事だよ。」
「そう…ですね。一番安全な場所に居たはずなのに……」
「スザク…?泣いているのかい?」
うつむいたまま肩を振るわせているスザクに、その人物が優しく声をかける。
「…すみません。…ただ悔しくて…悲しくて…兄さんが殺されたのに、僕は何も出来なくて……」
「スザク、泣かないでおくれ……そんな姿を見たら、クロヴィスが悲しむよ。
私だって、今はお前の頭を撫でて慰めてやる事も出来ない。」
「兄上……」
「辛いだろうが、あとを託せる人物を選んで、クロヴィスを連れて帰ってきておくれ。」
「──はい。シュナイゼル兄さん。」
瞳に涙をためながら、それでも顔を上げ微笑むスザクにモニターの人物、神聖ブリタニア帝国宰相、第二皇子シュナイゼル・エル・ブリタニアは、ほっとした様に笑みを浮かべた。
「では、帰りを待っているよ。スザク・エル・ブリタニア。」
a captive of prince 第1章:シンジュク事変 - 3/4
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